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胸に棲む影

カメラの設定をガラッと変え、コントラストを強くしたモノクロ写真ばかり撮っている。大きな影と、細かい部分のやわらかいグレーの影を同時に収められたらとシャッターを切るけれど、なかなかうまくいかない。買い物の途中に飲んだカフェオレを撮って加工したら、レントゲン写真みたいだと思った。わたしの影はどこにあるのだろう。

きっとわたしが立っているところはすごく浅瀬で、すごく安全で、それなのに、どうしてこんなに溺れてしまうんだろう。ただの日常の1コマなのに、カフェオレの影は溺れそうなくらい深く見えた。

底の氷を掻き分ければいいんだよ。すぐ足がつくから大丈夫だよって、誰かが言ってくれているかもしれないのに。

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乗り馴れた駅のエスカレーターで足がさらわれそうになる。エスカレーターはわたしを知らないところへ運んでいく。遠くに運んでいく。ホームに着いたら、もっと遠くに。いつも「どこか遠くに行きたい」と現実逃避しているのはわたしなのに。もし、いざどこかに運ばれたらこんな風に足がすくむのだろうか。

昨日、つい先日にテレビで聴いた歌をはじめて歌ってみた。原曲は知っていたのだけれど、違う人が歌っていたのだ。「はじめてにしては悪くないかも」なんて思って自分の歌を聴き返していた。だけど、ついさっきわたしがテレビで見た人が歌っているのを聴いたら、ああもう声も歌い方も何もかも敵わないと思った。テイストの違いとかそんな話じゃない。わたしが足りない。それなのにそれっぽく歌えていたつもりの自分が恥ずかしい。

思わずまたトイレに篭って歌い直してみたけれど、下手な真似事のようにしかならず、苛ついたまま歌うのをやめた。寂しさを訴えていた友人からもはぐらかすような返事が届いていた。

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今日はお祭りがあったらしく、お神輿の準備をする人がいた。大通りには提灯が懐かしい橙色をしている。小さな頃、今は亡きおばあちゃんと一緒に行った夏祭りで、提灯を下から除いたことを思い出す。こんなに暖かい光を放つ提灯の中には万華鏡みたいに特別なものがあるんじゃないかと思った。何もないと知った今は覗くこともしない。

友人からの素っ気ない連絡。
応募していた仕事からのお祈りメール。
思うように歌えない歌。

何か「仕方ないこと」があればいいのに。「仕方ないから」と、胸に何か影を棲まわせて、これのせいなのと笑えればいいのに。わたしはどうも身体だけは重大な問題が起こることはほとんどなく、レントゲンでもCTでも医者に何か言われたことはない。早くこの苦しさをカメラで撮ってくれよ。

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きっと生きてまた会えますように
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Minako Masubuchi / Artist

Artist, JPN よくしゃべる芸術家です。生きづらい民。趣味は外国語と歌です https://instagram.com/minakomasubuchi_jpn
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