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「僕はあなたに薬を出しません」精神科医に言われた言葉と、その真意

前職で働いていた頃。出勤しようと家を出て歩き始めると吐き気が起こるようになっていた。

最初は「胃の調子が悪いのかな?」と食事や生活を気にしてみたりしたが、吐き気は良くなるどころか悪化していった。自宅から駅に向かう間ずっと、数歩歩いては吐き気が込み上げてえずき、吐きそうになるが吐くわけではない。

内科に相談して胃腸の薬をあれこれ調整してもらったがどれも効果はなく、身体的なものではないのなら、「仕事が忙しいなあ」くらいしか自覚はなかったがメンタル由来なのかもしれない…と、ずっと通っていた精神科でも相談した。

症状が出勤時のみに出ることから、「仕事のストレスが原因でしょう」と不安を抑える薬が出るんだろうなと思っていた。ところが当時の担当医はわたしの話を細かく聞くと、こう言った。

「僕はあなたに薬を出しません」

えっ、なんで、だって吐き気で苦しいのに?多分ストレスが原因だから精神科の薬が必要なのに??と呆気にとられたわたしに、医者は椅子を回し体ごとこっちに向き合って話した。

「毎日、朝から終電近くまで仕事して、帰って家事もして、睡眠時間も満足に取れていないんですよね。その吐き気は、あなたの体が悲鳴を上げて、あなたを休ませようとしているんです。ここで薬を出すことは簡単だけど、症状を抑えたらあなたはもっと頑張ってしまうでしょう?本当に心身を壊しますよ。だから僕は、薬を出しません」

やっぱり呆気にとられているわたしをよそに、医者は同席してくれていた夫にも真剣な口調で話した。

「仕事の状況がなかなか変えられないなら、帰ったらとにかく休ませてください。化粧も落とさなくていい、歯も磨かなくていい、家事もやらなくていい。とにかく休ませてください」

医者にこんなことを言われたのははじめてだった。


それまでもいくつかの精神科に通ったが、薬の処方については本当に医者の裁量によるところが多いなと感じていた。

「医者は儲かるから薬を出したがるし、精神科医は患者の判断力が落ちているのをいいことに薬漬けにする」なんて体験談のような噂もよく耳にする。だからわたしは薬が増える場合、できるだけ医者の考えや薬の効能をたずねるようにしていた。

それでも、症状に苦しんでいるときはとにかく少しでも楽になりたくて、患者側も焦って薬の処方を求めてしまいがちだ。薬による対処療法。

もちろん、対処療法だってとても大切だ。だけど今回のわたしの場合、その場しのぎの対処療法を続けていった先に何が待っているか。薬を出さないと言った医者の言う通り、きっと心身にもっと負荷をかけて、気づいたときには仕事がどうこうなんて言っていられない状態になったかもしれない。

患者の「今」だけでなく「この先」を見てくれる医者なんだな、と思った。あとからじわじわとありがたみを感じて、胸がいっぱいになった。


本当に様々な医者がいて、自分に合わないと感じる医者や、信頼できないと感じる医者もいるかもしれない。精神科は心の症状を取り扱っているから、なんだか不透明で怪しいと思っている人もたくさんいるだろう。

だけど、患者のために「薬を出せば儲かるのに、出さない」という判断をする医者だっていることを、わたしははじめて知った。それから、治療に対する意識も少しずつ変わって、この人の言うことを聞いてみよう、もっと話してみようと思えるようになっていった気がする。


その後、わたしは会社のチームメンバーに吐き気のことをメールで簡単に報告し、これ以上無理が利かないと言うことができた。会社を辞めた今でも吐き気には悩まされることがあるけれど、なんとかやっている。

あのときの医者の言葉は、忘れない。命を救ってもらったと思っている。薬を出さないという、強い意志をもって言ってくれたあの言葉を忘れない。

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「僕はあなたに薬を出しません」精神科医に言われた言葉と、その真意

Minako Masubuchi / Artist

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Minako Masubuchi / Artist

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