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足踏みミシン

夏が近づくと思い出す、父方のおばあちゃんの家のこと。夏休みなどの長期休みに両親は、弟とわたしを休みの間まるっと父方のおばあちゃんの家に預けた。

おばあちゃんの家には自分の家にないものもたくさんあって、その中で一番記憶に残っているのはキッチン、千種類ちかくの植物が溢れる庭、そしておばあちゃん愛用の足踏みミシンだった。

おばあちゃんは、いつも何か必要なものがあると足踏みミシンでささっと作って見せてくれた。夏休みはご近所に住む同い年の女の子とお揃いのワンピースを作ってくれた。暑い夏も爽やかに過ごせそうなシンプルなワンピースには水色の花柄が踊る。さらにリカちゃん人形の細かい洋服まで作ってくれて、しわの刻まれた手で小さなセーラー服を渡されたときは、おばあちゃんすごい!とはしゃいだ。

だけど、歳を重ねるごとにおばあちゃんは足踏みミシンを使わなくなった。使えなくなったと言った方が正しい。足踏みミシンがある部屋は急な階段を上らないと行けない2階の部屋だったからだ。足腰がゆっくりと悪くなっていったおばあちゃんは階段を上るのがむずかしくなり、お裁縫をしなくなった。

やがて、おばあちゃんは病気で亡くなってしまった。おばあちゃんの家をどうするかは親戚たちで集まって話し合った末に取り壊すことに決まった。あの足踏みミシンの部屋はもうない。家の前の道路にローセキで絵を描き、夢中になって車が来ていることに気づかなかったあの通りに、わたしはもう二度と行けないだろう。思い出の風景の中、おばあちゃんの家だけ無くなって、多分新しい家が建っている。それを見たらきっと泣いてしまう。

暑い夏休み、1階にいても聞こえてきた、カタカタと鳴る足踏みミシンの音を聴きながら、窓を全開にして涼んだ。冷房は体に悪いから午前中はだめよ、なんて言われていた。思い出は何年経ってもぽろぽろとこぼれ落ちてくるから、受け止めるのが大変だ。涙のように指の間をすり抜けていく。

それでも、記憶のこぼれるままに泣いてもいい。思い出すことを止めようとしなくてもいい。だって、それだけ大事な人だったということなのだ。

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Minako Masubuchi / Artist

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