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海を開けて二度と振り向かないように

高校生の頃、ほぼ毎日通っていた美大予備校は小さなところだった。わたしはデザイン科にいたけれど、油絵科が気になっていた。いつも部屋が薬品くさく、生徒たちは絵の具でベタベタになったツナギを着ていた。

デザイン科でもツナギを着ている子はいたけれど、わたしは買わなかった。アクリルガッシュで色彩構成をしていて手がベタベタに汚れてしまう子もいたけれど、わたしは手が汚れたことはない。汚れる子は没頭して塗っていたのだろう。

わたしは「デザインの勉強」だと思っていたので汚れなかったのかな。それともデザインにも没頭できてなかったのかもしれない。ちょうどその頃、デザイン科の講師が言っていた。

「手も服もすげぇ汚れるやつは才能がある。全く汚れないやつも。一番才能がないのは、中途半端に汚れるやつな」

未だに覚えているので当時かなりプレッシャーに感じたんだろう。講師は笑っていたけど。時々、髪の毛の先にアクリル絵の具がついてるよ〜と友達に笑われたことがあったけど、あれは予備校のときだったか、そのあとだったか。これは「中途半端に汚れる」に入るのか。中途半端に入りたくなかった。


デザイン科の中でも色々な勉強ができて、気になったテキスタイルの受験勉強もした。服には興味はなかった、というか自分の体型が嫌いで好きな服も分からなかった。でも布地は作ってみたい。テキスタイルの色彩構成は普段の色彩構成と違って、モデルみたいに細くていつもニコニコ優しい女性のテキスタイル出身の先生は、普段の「デザイン科」の授業とは違った厳しい顔を見せた。


小さな予備校は油絵科とも距離が近かったので、デザイン科の生徒が遊びに行ったり、油絵科の生徒がデザイン科の授業を見にきたりした。

同じデッサンでもデザイン科では石膏像、静物、手(多摩グラ対策)などをモチーフにすることが多い。油絵科は人物デッサンができるのが羨ましかった。

デザイン科と油絵科で合同授業みたいにして人物を描いた時、油絵科の先生に自分の描いた人物デッサンを褒めてもらえて嬉しかった。デザイン科のデッサンの中でも石膏像はよく褒められて「お前は描き込みは甘いんだけど妙に似てるんだよなぁ〜、印象が似てる」と言われたことがある。わたしはデザイン科の先輩がいつも描きこみすぎて講師に指摘されていたけれど、どうしたらそれだけ描き込めるのかわからず、先輩の絵を見ても自分にはできなくて、つらくて仕方なかった。


油絵科の先輩に、女性で変わった格好をしている人がいた。たくさんピアスを開けていたけどいくつあったっけ。わたしはその先輩を面白いと思ったし、先輩も面白がってくれて、公園に行って喋ったりした。先輩は子どもみたいで、照れると恥ずかしそうに頭を掻くし、絵がうまくいかなくて悔しい時は頭を掻き毟って抱え込み、しばらくすると自分で頭をはたいて絵に向かっていた。

そんな先輩を含む何人かでの飲み会で「わたし油絵にも興味があって」なんて言ったわたしがバカだった。「ふざけんじゃねえ、興味あるとかでやるんじゃねえよ!!」と先輩に怒鳴られた。周りの人たちはその先輩を止めてくれたけれど、正直な気持ちとはいえわたしが浅はかだったのだ。先輩を傷つけてしまった。


一度、おいでおいでと招かれて、先輩の家に遊びに行ったことがある。リビングには昼間なのに酔っている感じの細いお母さん。でも歓迎してくれた気がする。階段を上がって先輩の部屋に行くと、目に入ったのは、先輩が絵の具を使って手で描いた荒れた文字。天井近くの柱や壁に言葉を書きなぐっていた。

「言い訳するなら描くなよ」

いっぱいあった中で、これだけ覚えている。先輩は人の言い訳も、何より自分の言い訳も許せなかったのだろう。部屋にもたくさん絵や本があった気がするけど、文字が衝撃的すぎて覚えていない。この言葉は未だ自分にも突き刺さっている気がする。

「すっごいイライラしたとき、頭を壁にぶつけたりなんかやっちゃいたくなりますよね、頭の中ではやってるんですけど」って言ったら「やらないの?頭の中だけ?」と先輩はわたしを見て冷たい目でせせら笑った。


あの先輩は今どうしているのかな。絵は描いているのかな。描いているなら、もう少し優しい気持ちで自分のために絵を描いてくれていたらいいなと思う。でもまあそれが難しいのはお互い様かあ。


このまとまりのない文章のタイトルは鬼束ちひろの「Castle・Imitation」から取った。

「月光」などたくさんの曲で「生きづらさ」を全力で歌う鬼束ちひろが、この曲では「生きて、生きて、生きて生きて生きて、生きて」とサビで歌う。インタビュー記事などを読む限り明らかに生きづらさを感じて育ってきた彼女が歌う「生きて」はどれだけ切迫した感情なのか。


わたしも彼女の「生きて」みたいなメッセージが出せたら。

海を開けて二度と 振り向かないように
闇へ続く道でも 後ろなど振り向かないように


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きっと生きてまた会えますように
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Minako Masubuchi / Artist

Artist, JPN よくしゃべる芸術家です。生きづらい民。趣味は外国語と歌です https://instagram.com/minakomasubuchi_jpn

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